一般社団法人日本産業カウンセラー協会 東関東支部
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産業カウンセラーを訪ねて

東風「60号」

「障がい者雇用の今とこれから」

大杉 利裕さん(千葉市)

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障がい者雇用の状況
 一月一五日に令和二年の障がい者雇用状況結果が発表されました。企業は障がいのある従業員を一定割合で雇用する義務があり、毎年の六月一日時点の雇用状況を報告します。法定雇用率二・二%(二〇二一年三月から二・三%)、に対して実際の雇用率は二・一五%で、この法律を守っている企業は四八・六%です。コンプライアンス重視の時代に、半数以上の企業が守っていない法律はこの法律くらいかもしれません。また近年、障がい者就労支援では様々な施策がうたれているものの、雇用率の伸びは毎年微増にとどまり、大きく改善をみせているとはいえないのが実感です。そろそろ制度の再設計が必要ではないかと思われます。

障がい者雇用を阻むものは眼差し
 障がい者の社会参加を阻む原因として「眼差し」の問題があります。ジョブコーチ(企業内で障がい者を支援)でのエピソードです。身体障がいのある社員が社内便の集配作業に就いていたころ社員からクレームが入りました。それは「足の悪い人に、かわいそうでは…」というものでした。もう一つは、コロナ感染防止の除菌作業を知的障がいのある社員の業務にしてはという提案に「社会から非難されないか…」という理由で待ったが入りました。この文脈で「障がい者」を伏せてみると自分の中にあるバイアスに気づきます。
 これらの背景にあるものは「障がい者はこうあるべき」という思い込みです。「障がい者にはムリ「(障がい者雇用は)大変だ」の思い込みが社内または社会全体の眼差しとなって、障がい者の社会進出の機会を奪っています。この眼差しはとてもやっかいで、障がい者のエンパワメントを後退させたり、見えないパワーとなって当事者たちに期待される行動を強いる(役割期待)ことにもなります。貴重な人的資源がこの眼差しによって生かされていないのが障がい者雇用の課題の本質です。

カウンセリングの応用問題としての障がい者支援
 次に支援をする私たちの課題として、人を開発することよりもケアの意識が先行してしまう傾向があります。私自身も支援においてクライアントとの関係づくりに葛藤してきました。支援には相手を支配するという側面があり、支援者の「よりよくあってほしい」という思いを相手に強いてしまうことがあります。時には支援者の思いにクライアントが過剰に適応してしまうという不健康な関係に発展することもあります。
 さらには生活習慣や家族関係など本人の事情と障がいを混同してしまい、保護的に意見したり介入してしまうこともあります。すると、就労支援の計画は、気づかないところで支援者が敷くレールの上で進んでいきます。結局それは本人の意思決定のプロセスが希薄なため、就労しても職業生活において力強さを欠き、早期の離職につながります。おそらく、自分で勝ち取った就職ではなく「お世話になった」就職では達成感も成功体験も半減してしまいます。
 ケアが先行する理由として、支援者とクライアントの関係の非対称性があります。障がいのある人ない人、情報量の差、支援される側とする側、福祉という特殊性、公的な窓口の権威イメージ、これらの非対称性を克服して対等な関係づくりとクライアント主体での就労支援を進めることは、支援者自身の自己理解が問われる、まさにカウンセリングの応用編といっていいと思います。

コミュニケーションの保障とキャリアの支援
 かつて、知的障がいの人のカウンセリングは難しいといわれたことがあります。語彙力や抽象的な思考が苦手なため、規則やルール中心の支援や訓練が行われてきました。また、発達障がい(特にASD)の人は、言葉の持つ意味や感覚に違いがあったりして共感・一致が難しい場合があります。一方で、丁寧に語ってもらうと豊かな人生が浮かび上がってきます。時に知的障がいのある人の紡ぎだす言葉の一つがとても力強かったりします。支援の前提条件として、語りやすい場づくり・関係づくりと、本人が発した言葉がちゃんとキャッチされるコミュニケーションの保障が大切であると思います。知的障がいのある方には要約や言い換えは控え、合いの手のような応答の方が本人の言葉を引き出すことができます。
 また、障がい者就労支援では、福祉から企業就労へのスローガンのもとで就職と定着までの支援体制は整ってきました。しかしながら、長い職業人生をどう充実させていくかのキャリア支援は十分ではありません。企業においても、これまでの社内キャリアや社員制度は障がいのない人(いわゆる健常者)を想定し設計されています。障がい者のキャリアは社内にロールモデルがなく未整備な状態です。障がいや病気治療との両立など多様なキャリアの支援は、まさにサイボウズの「一〇〇人一〇〇通りの人事」に通じるように思います。

企業の現場にあったヒント
 これまでたくさんの障がい者雇用の現場を見てきて、上手に雇用管理をする企業担当者の共通性を感じます。それは、担当者の背景が「人事系」または「モノづくり系」が多いことです。そして、意外かもしれませんが、障がいや診断名の知識がほとんどないことも共通しています(さほど関心がないといった方が適当かもしれません)。おそらく、人事系の人は障がいでなく人的資源として人を見ていること、モノづくり系の人は労働を科学的に見るからではと思われます。これらは「医療モデルと社会モデル」に通じるところがあります。私たち専門職は本人を障がい特性や心理アセスメントで理解しがちです(医療モデル)。一方で上記の担当者は、障がいや病気でなく、その人を見て理解する企業特有の人間理解があるように思います(社会モデル)。人が開発され成長する場としての企業の雇用の現場からはたくさんのことを教えられます。

これからの障がい者雇用
 コロナ禍の長期化は障がい者雇用に大きく影を落としています。障がいのある従業員が十分な仕事がない状況で在宅勤務になったり、オフィス機能の変化でこれまで主な職域であったファシリティー業務(清掃・営繕、メール集配、喫茶等)が縮小したり中断するなど、働く環境が脅かされています。
 一方で、急速なデジタル化や、グローバル化、そして会社と人の関係の変化は、障がい者雇用を前に進めるチャンスでもあります。それには、働き方の変化における各種の人事制度やHRテック、テレワークシステムなど新しいテクノロジーにおいて、障がいのある人を含む多様な働き手を想定してデザインされることが重要であると考えています。
 遠隔ロボット「オリヒメ」を使ったアバターワークで重度の身体障がいのある人が接客業で働く様子には勇気づけられました。同じような感覚を拡張していくテクノロジーにはぜひ注目です。また、コロナ禍では様々な分野のエッセンシャルワーカーが活躍しましたが、適切な職業訓練を受ければ障がい者が力を発揮できる業務も多いように思いました。その他に、テレワークは対人緊張の強い人や移動に制限がある人にとって能力を発揮できる働き方として期待されます。
 これまで一般労働者に比べ周回遅れの感があった障がい者雇用ですが、変化をテコにすれば一気に差をなくすことができるかもしれませんね。

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